教科書採択問題2015

請願の意見陳述・審議が行われ、終了後抗議文を手渡す。

8月4日の県教育委員会及び18日の同臨時会で、教科書採択に関する請願・意見陳述を行いました。

全て不採択となったことに対し、18日臨時会の終了後に会として、以下に掲載した「抗議文」を具志堅教育委員長に手渡しました。

神奈川県教育委員会  
 教育委員長 具志堅幸司 様  

実教出版「高校日本史AB」教科書を排除する「採択決定」の撤回を要求する(抗議文)

~憲法の「学問の自由、思想・良心の自由、表現の自由、国民の教育権」に基づき、国際的基準であるILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」を尊重せよ~

神奈川県教育委員会は、本日、多くの市民・教職員による要請署名や請願等の意見を無視し、各学校の教科書選定における実教出版「高校日本史AB」教科書を排除した上で、「採択決定」を強行した。

・4月21日の県教育委員会による校長対象の教育課程説明会の問題性
県教育委員会は昨年度及び一昨年度の教科書選定希望における「再考」の経緯について説明し、それ以外のことに触れていないと回答した。
しかし、県教委事務局が実教出版「高校日本史A,B」教科書の「再考」問題を敢えて説明し、しかも、「実教は採択されない。候補にあげることも不可」という昨年の県教委の誤った「指示」を明確に訂正しなかったことにより、各校長は実教出版「高校日本史A,B」排除の「再考」問題は継続していると受け止め、実教出版「高校日本史A,B」を排除した事実が次の追浜高校からも明らかである。

・県立追浜高校での「実教出版教科書を選定から排除した事実」
6月29日、追浜高校定時制で「教科書選定委員会」があり、日本史の教科書に「実教日本史A」が選ばれていることに気づいた校長が社会科の教員3人を呼び出し、教科書を変更するように求めた。
 7月2日の長時間にわたる校長と教員たちの話し合いでは、教員たちが、「私たちはこの教科書の良いところをいくつも指摘しています。この後、校長権限で教科書を差し替えたということならば、それは僕ら(教科専門の教師として)の専門性にかけて責任を持てないということです。」と抗議を行った。にもかかわらず、校長は「実教出版高校日本史A」を排除し学校選定を行った。
このような担当教師の教科書選定の意向を踏みにじる学校の現状に対して、県教育委員会は「適切」な学校選定であると判断し、県立高校の教科書採択を決定した。

・「綿密な調査研究」は教科書採択に不可欠
本年4月7日、文部科学省初等中等局長名「平成28年度使用教科書の採択について(通知)」では、「教科書の採択は、教科書が教科の主たる教材として学校教育において重要な役割を果たしていることに鑑み、教育委員会その他の採択権者の判断と責任により、綿密な調査研究に基づき、適切に行われる必要があります。」としている。
ここで言う「綿密な調査研究」とは、「必要な専門性を有し、公正・公平に教科書の調査研究を行うことのできる調査員等を選任し、各教科に適切な数配置するなど体制の充実を図る」とされ、この調査員の中心は教員である。

・教科書の選定(選択)について教員には不可欠な役割がある
本年4月22日、衆議院 文部科学委員会において、文科大臣は、ILOユネスコ「教員の地位に関する勧告」61項を尊重する旨の次のような答弁を行った。
「我が国におきまして、公立学校の教科書採択の権限は、その学校の所管する教育委員会に属しておりますが、実際の採択は、幅広い意見を反映するため、通常、教員や保護者を初めとした調査員による調査研究を踏まえた上で行われているわけでございまして、教員の地位に関する勧告と何ら相反するものではないと考えます。」
この文科相答弁からも、教科書の採択において教員は不可欠な役割を有することは明らかであり、教科書選定において、この役割は重視されるべきである。
「教員の地位に関する勧告」では、「教員は専門職としての職務の遂行にあたって学問上の自由を享受すべきである。教員は教科書の選択などについて不可欠な役割を与えられるべきである」とされている。
担当教員の選定を覆す、県教育委員会の姿勢は「教科書調査研究を充分行い、学校及び生徒の実情を考慮して採択する」とした県教育委員会の「採択方針」自身にも違反するものである。

・そもそも実教出版「高校日本史A、B」を排除する「再考」の根拠はない
県教育委員会は、2013年、実教出版の「高校日本史A」「高校日本史B」教科書が国旗・国歌について「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」と記入した側註部分が委の指導方針と「相入れない」として、これらの教科書を選定した学校に対し「再考」という名で選定のやり直しを求め、実質的にこれらの教科書の排除を行った。
しかし、この側註部分は、国旗国歌法が制定された過去の一時期、卒業式・入学式における国旗・国歌の扱いについて、服務として当然のことと見るか思想良心の自由を妨げる強制と見るかをめぐって熾烈な争いがあったことを踏まえ、検定の際、文部科学省からの要望で書き加えられたものである。
 したがって、これを問題視するのは、恣意的な政治的判断と言わざるを得ず、県教育委員会が越権的に教科書の二重検定を行ったことに等しい。
また、県教育委員会は、神奈川の2つの「日の丸・君が代」に関わる裁判の判決を根拠に、県の指導方針が、実教出版の側註と「相入れない」としている。しかし、「こころの自由裁判」では、職務命令や処分が出されていないことを理由に原告の確認の利益がないと判断され、また、「君が代不起立個人情報保護裁判」では、国歌斉唱時の不起立情報は不起立の理由を聞かないので思想信条情報に当たらないと判断したものにすぎない。これらの判決から「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」という事実を否定する判断は示されていない。

・教育内容の統制は許されない
この間、県教委は「指導」と称して国旗国歌への敬意を表明させる、国歌斉唱時の起立を教職員に強制している。この事実を覆い隠すために、たった20文字の文言を理由に、実教出版「高校日本史A・B」を排除しているものである。
 真実を伝える教科書を排除し、教育への政治介入をすすめる「実教出版・高校日本史」排除は、教育の国家統制への道である。私たちはこのような教育をゆがめる動きを看過することはできない。

県教育委員会は、8月4日に二度にわたり明言した通り、「特定の教科書の排除を求めていない」ことをあらためて明確に説明し、上記の文科大臣答弁や県教委の「採択方針」に基づき、各高校での「高校日本史」教科書選定をやり直すよう要求する。

2015年8月18日        

   公正な教科書採択を求める県民の会
 「日の丸・君が代」の強制に反対し、学校に「思想・良心の自由」を実現する会

 

  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

会員の傍聴記及び報告

『8月18日県教育委員会臨時会の報告』
教科書選定介入、県民に説明できない神奈川県教委 日本史教科書問題、8月18日の神奈川県教育委員会報告

◆今年も実教『高校日本史A』『高校日本史B』を各学校の選定段階で握りつぶしたまま、神奈川県教委は教科書採択を強行しました。 神奈川県教委は新証拠を黙殺し、選定やり直しに応じませんでした。 建前と本音の矛盾を県民に説明できないまま、「校長への伝達は確認事項だから、文書記録がないのは従来通り」という、開き直りと取れる発言すらありました。 一方で、県教委は「特定の教科書の排除を求めていない」と弁明せざるをえませんでした。 ならば、各学校は自信を持って「この教科書を選定する」と希望の実現を求めることができるはずです。 神奈川県教委は自己矛盾に陥りました。

◆今年の請願は、以下の諸点について県教委の合理的な説明と見解表明を求めていました。 説明できなければ採択に進むことはできず選定をやり直すべきことはいうまでもありません。

1)2013年、実教を希望した28校に「再考」させた根拠は? 2)教科書選定に当たる教員の役割の重要さについて(ILOユネスコ勧告第61項*をめぐる国会答弁**) 3)笠原参事監の「(昨年)事務局の説明が各校に正確に伝わらなかったことへの反省」はどう具体化されたのか? 4)各学校の復命書(報告文書)が実教排除は「指示」だと受け止めている事実をどう考えるのか。

これらに対して県教委は、
1)委員会で不採択になれば学校が「混乱」する恐れがあったため、という一昨年からの説明を繰り返すだけでした。
2)国会答弁の都合の良い部分をつまみ食いして、その意義を小さく見せようとしましたが、それでも「教員の果たす役割は決して小さくない」という部分を読み上げざるをえませんでした。 一方、「校内選定は校長が責任を持って行ったもの」という県教委の立場を今年も繰り返し確認するだけでした。 教育活動を直接担う教員への敬意が全くありません。 また、県教委の指示通りに動くように指導された校長は主体的な判断を発揮できないこともはっきりしました。 「校長権限」とは現場への介入をごまかす口実に過ぎないのです。
3)「適切にしっかり説明するよう徹底を図った」と笠原氏(今年度は教育監)自身が説明。全く具体性がありませんでした。 また、記録は重要であり文書記録を残すべきだとした「県情報公開審査会」の付言の尊重について県教委事務局は、「付言は『再考を求めるような特殊な事案では~』とあって、『重要な事案』とは書いてない、として、請願に応えませんでした。重箱の隅をつつく論点ズラシです。あたかも選定「再考」は特殊事案であって、重要事案ではない、と言いたいかのようでした。 また、「昨年の反省をふまえて重要事項は記録を残すよう、改善している」と述べておきながら、「従来から確認事項は口頭で説明している」と答えました。各校長への説明は確認事項に過ぎないから、文書記録がなくても適切だ、という理屈なのでしょう。典型的な開き直り答弁です。
4)復命書集計(全)という新資料に対して県教委はこれを黙殺する方針で臨みました。すなわち、説明に問題はなかった、という昨年の理屈を再び使い回したのです。 問題があった、という指摘に対して、疑惑の当事者が「なかった」と繰り返すのみ。 しかも補強に用いるのは「適切だった」という自己評価だけです。 自分の主張しか根拠がないのですから、自説の循環参照、もしくは同語反復に陥っていることになります。説明になっていません。

◆傍聴者が見守る中、会として具志堅委員長に直接抗議文を渡しました。 また請願者からも再考を求める発言が続きました。 《注》 * ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」(1966年)は第61項「8 教員の権利と責任」において, 「教育職は専門職としての職務の遂行にあたって学問上の自由を享受すべきである。教員は生徒に最も適した教材および方法を判断するための格別の資格を認められたものであるから、(中略)教材の選択と採用、教科書の選択、教育方法の採用などについて不可欠な役割を与えられるべきである。」と明示している。 **2015.4.22衆議院文部科学委員会での教科書採択権限をめぐる審議の記録: http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009618920150422006.htm

 

『8月4日県教委教科書採択請願の傍聴記』

約30名の傍聴希望者が来て、抽選となりました。私は抽選に外れ別室での傍聴でした。今回の主要な議事は、「実教出版・高校日本史教科書の排除問題」と「県立中等教育学校の教科書採択」です。実教・高校日本史については、新たに請願第3号の意見陳述が行われました。
今年もある県立高校で実教出版の書き換えを強要した学校がありました。教科として「私たちはこの教科書の良いところをいくつも挙げている。校長はわずか10数文字の記述だけで否定するのか。私たちの専門性にかけて責任が持てない」と抗議したことが、リアルに報告されました。
請願は、現場教員の選択を尊重することと、校長に「自由な選択ができること」を説明し再提出を通知するように県教委に求めました。継続審議となり、18日の採択日に審議されます。
次に、7月21日の請願第2号に関する審議がされました。今年、学校現場で校長が実教出版・高校日本史を排除した実態の調査を求め、実教日本史排除が県の「教科書採択方針」に反し、憲法の出版・学問の自由の侵害ではないかなど教育委員としての見解を求めるものです。
委員会は「一括しての審議」として個々に答えることを避け、これまでの教育委員会の排除問題に対する見解を繰り返すのみでした。彼らの公式見解は「学校においては、校長が責任を持って教科書を選定している」「教育委員会事務局は、特定の教科書の選定からの排除を求めていない」というものです。
また昨年の教育委員会での誘導的な発言については、「発言は、議事録の通りである」と説明を拒みました。
この日の会議では、平塚中等学校がこれまでの育鵬社歴史教科書から日本文教出版に変えることが決定されました。教育委員会後の報告集会で、これは、私たちや組合の運動の成果だと確認しました。4年前は、校長の強い意向で育鵬社に差し替えたのですが、今年はそれを許さなかったということです。
◆今回の請願の成果 (1)「県教育委員会として特定の教科書を排除するよう求めてはいない」「排除を行うことは考えていない」という明確な説明がありました。 この説明が各学校が実教を選定することを否定していないことは明らかです。 (2)これまでのような「教職員には学習指導要領に基づき、児童・生徒に対する(国旗国歌の)指導を行う責務がある」という判で押したような説明は、今回全く鳴りを潜めました。 県教委は、憲法違反だという指摘に答えざるを得ない地点に立たされました。 (3)審議内容も結論も、請願に誠実に応えるものではありませんでした。文書による回答を求めたことにも全く応じませんでした。 しかしその結果、県教委として説明できないという実態を明らかにすることができました。

 

「公正な教科書採択を考える学習交流集会」

活動報告写真

 県内から多くの人が集まりました

7月25日(土)開港記念会館9号室

県立高等学校で、横浜・川崎市立中学校で、さらに県内の市立中学校で、歴史・公民教科書採択を巡る切迫した状況報告がありました。今、国会で審議されている「安保(戦争)法案」とも密接につながり、連動していることを強く感じました。これから県・市の採択現場で、さらに国会にも異議申し立てをしていきましょう!