「主権者教育」

「教育への不当干渉」弁護団体声明

選挙権年齢が「18才以上」に引き上げられた7月の参院選で、18才の投票率が高かった横浜市青葉区の県立高校3校に対し、神奈川県警青葉署が「区の18才投票率が高いが、特別な取り組みをしたのか」と問い合わせていた。(朝日、東京等9月13日朝刊記事)これに対し、県内の弁護士約130人が参加する自由法曹団神奈川支部は「教育内容への不当な干渉で、警察権の乱用」とする抗議声明を公表した。(以下、声明文)

神奈川県警青葉警察署による教育への不当な干渉とこれを黙認する神奈川県教育委員会に抗議する声明

本年7月に行われた参議院議員選挙は、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられて初めて実施された選挙であった。この選挙において青葉区内の18歳、19歳の投票率が高かったことから、神奈川県警青葉警察署(以下「青葉署」という)が横浜市青葉区内の県立高校3校に対して「特別な取り組みをしたのか」等と電話で問い合わせた事実が確認された。これに対し、青葉署は「18歳19歳の投票率が高かったとの報道を受けて,理由を調べるためだった。」と弁明し、また、神奈川県教育委員会(以下「神奈川県教委」という)は、「今後の主権者教育に問題ないと考える」とコメントした。

しかし、青葉署によるこのような事情聴取は、18歳・19歳という若年者の選挙権と学習権に対する干渉であるばかりか、警察権力の濫用として断じて許されるものではなく、これを黙認する神奈川県教委の態度もまた許されないものである。

憲法は、国民主権の原理(憲法前文、1条、15条)に基づき、両議院の議員選挙において投票をすることで国の政治に参加する権利を国民に保障している。選挙は、国民主権の下、主権者である国民と代表者とを結び付ける手続きとして極めて重要なものであり、選挙権の保障なしに国民主権はありえない。

このような選挙権の性質からすれば、高い投票率は、多くの国民が主権者として意思表明した事実を示すものであり、憲法理念に適うものである。

これに対し選挙違反の取り締まり権限を有する警察が、高い投票率を理由として「特別な取り組みをしたのか」を問い合わせることは教育内容への不当な干渉にほかならず、主権者教育を行っている現場の教員に著しい萎縮効果を与えることになる。そしてそのことは同時に、若年者が主権者としての教育を受ける権利(学習権)に対する侵害にもなりうる。

警察官の職務は、「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ること」に限られ、権限の濫用は許されないとされている(警察法2条)。「18歳19歳の投票率が高かった」という事実が、犯罪の予防などと無関係であることは明らかであり、警察による今回のような「聞き取り」は,警察権の濫用というよりほかない。

そもそも教育は不当な支配に服してはならず(教育基本法16条1項)、地方公共団体における教育に関する事務は、教育委員会が管理・執行する権限を有している(地方教育行政の組織及び運営に関する法律21条)のだから、神奈川県教育委員会は、今回の青葉署の行った教育内容への干渉に毅然と抗議すべき立場にあるにもかかわらず、これを「問題ない」と事実上黙認したことは、その責任を放棄したものと断ぜざるを得ない。

私たち自由法曹団神奈川支部は,神奈川県内で活動する弁護士130名で構成し、社会正義の実現、自由、人権、平和を守るために活動している団体であり、今回行われた青葉署による選挙権と学習権に対する干渉、警察権力の濫用及びこれを黙認する神奈川県教委員会の態度に対し,強くこれに抗議するものである。

                           2016年9月9日

                     自由法曹団神奈川支部   支部長 森  卓 爾


(以上、声明文終了)


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12月20日の下記集会「主権者教育ってなんだ?」について、会員からの感想が寄せられました。

「主権者教育」の問題は、現場の教員にとって、「教科書」や「統一テスト化」など様々な文科省・行政当局の教育へ介入・統制攻撃のそのひとつであり、そうした中 で、いらだち、苦悩していることがよくわかりました。

最後の方での「なめられている」という怒りの発言が、強くこころに残りました。

池添徳明さんがこの間、6つぐらい「主権者教育」の 集会に出ていて、「きょうの学習会は飛び抜けて内容が濃く充実していて実に面白 かった」とホームページに感想を書いてくれています。(「大岡みなみ」でヒットし ます。


2015年教育の自由を求める学習交流集会のお知らせ

集会テーマ:『主権者教育』ってなんだ?

日本国憲法に基づく「主権者教育」と「教育の自由」をすすめるために、文科省・総務省の「主権者教育」の問題点を明らかにしたいと思います。さらに、学校教育の様々な状況を情報交換し、これからの取り組みを一緒に考えていきましょう。

【主な内容】

1.政府の「主権者教育」についての分析

2.県教育委員会による「日の丸・君が代」強制の通知について

3.全体討論:質疑及び意見交流

日時:12月20日(日)14:00~16:30

場所:横浜市開港記念会館 9号室

 ※資料代:300円